可能性の視野を広げ、
日本酒の可能性広げる

山梨銘醸株式会社
Yamanashi-Meijo

 

銘水の里で創業300年

 静かな緑の中でさらさらと清らかなせせらぎが心地よく響く尾白川。ここは山梨県北杜市白州町。水の透明度の高さからして、その美味しさと冷たさが手に取るように感じられる。上流にある甲斐駒ヶ岳に降った雨や雪解け水は地中にしみ込み、何層もの花崗岩によって長い時間をかけてじっくりと磨かれる。こうして生まれた伏流水はやわらかく、透明感のある銘水として愛されている。この地域にはウイスキーの蒸溜所やミネラルウォーターの工場、老舗和菓子店や洋菓子メーカーの工場もあり、ともに大自然が与えるこの豊かな恩恵を享受している。

 その中でも山梨名醸株式会社は創業約300年の歴史を持つ老舗の酒蔵だ。信州高遠で代々酒造業を営んでいた北原家から分家した北原伊兵衛は、白州の水の良さにいち早く目を付け、江戸寛延3(1750)年に創業した。酒銘「七賢」は、天保6(1835)年に高遠城主から「竹林の七賢人」を彫った欄間が贈られたことが由来。明治13(1880)年に明治天皇が行在所として使った母屋の奥座敷は史蹟に指定され、醸造蔵とともに一般公開している。近年は、発酵技術を生かした料理を提供するレストランや、米糀から作った甘味料「糀糖」を使ったカフェも直営し、訪れた人がゆっくりと滞在できる観光スポットとしても人気が高い。



 

水のポテンシャルを引き出す

 「最も重要なのは、先祖代々から受け継がれてきた大きな資産である水と向き合うことです」と語るのは13代目社長の北原対馬さん。「白州の水は日本でも有数の軟水で、非常に人間の体液に近い、身体に優しい水です。この水にふさわしいのは香り華やかすっきりタイプのお酒。作りたい酒を造るのでなく、水と向き合い、そのポテンシャルを引き出す酒を造ることが醸造家の務めだと考えています」。

 白州を含む峡北地域は、水だけでなく米の名産地でもある。同社は「ローカルの水に近いもので育った米を使うことが本来の流れであり、水と最も適している米を選択すべき」として県産の酒米を約99%使用し、将来的には全て県産米とすることを目指している。使用する酒米「夢山水」、「ひとごこち」はそれぞれ山田錦、美山錦の交配種で、いずれもやわらかな味わいと米の旨味をより強く引き出せるのが特徴。これらの水、米を使って行う仕込みは、長い歴史の中で培ってきた職人の経験や勘も大切にしながら、最新技術による数値管理を取り入れ、高品質で再現性の高い酒を安定生産できる体制を敷いている。

日本酒から食品、化粧品まで

 こうした七賢の理念が特に表れている酒が「純米吟醸 天鵞絨(ビロード)の味」だ。丁寧な仕込みと酒米「夢山水」による、切れのいい果実味と軽快な酸味を持つロングセラー商品。酵母は、仕込み水との相性が良く、みずみずしい清涼感が持ち味の吟醸酵母を使用した。また長期低温発酵管理によって、爽やかな口当たりと軽やかな吟醸香を引き出している。

 さらに、同社が考え得る限りの手間ひまをかけて造り出した酒が「純米大吟醸 大中屋 斗瓶囲い」だ。酒袋から自然にしたたり落ちた雫を丁寧に集めた贅沢な雫酒で、国内外の品評会で多数の受賞歴を誇る。酒造好適米「山田錦」の中でもさらに粒の大きさや色味で仕分けした最高の米を使用し、37%まで磨き上げた。広がるアロマと、甘み、丸くやわらかな余韻が特徴で、贈り物や祝い酒としても最適だ。

必見は2014年に誕生したスパークリング日本酒。瓶内の二次発酵で生まれる泡はきめ細かく、舌触りの良さが魅力だ。発泡性アルコール飲料の人気の高まりを背景に、県内のワイナリーや県ワインセンターなどの協力を得て約5年の歳月をかけて開発した商品で、いまや売上の2-3割を占めるという人気シリーズに成長した。なかでも「七賢スパークリング 杜ノ奏(もりのかなで)」は、タンクで一次発酵させた低アルコール日本酒を、同じ白州にあるサントリー白州蒸溜所のウイスキー樽に寝かせるという奇跡のコラボレーションによって生まれた。爽やかなミネラル感とメープルシロップやバニラのような深い樽香、心地よい泡感が楽しめる逸品だ。

 同社はその発酵技術を生かし、発酵食品ブランド「ひとさじ糀」や基礎化粧品ブランド「COJIE」の開発にも力を入れ、日本酒を飲まない人やより幅広い年齢層にアプローチしている。「事業を継続して守るにはチャレンジしていくことも大切。挑戦こそが最大の防御です」と北原社長。「山梨はミネラルウォーター生産量で全国シェア4割を占めるなど豊かな自然環境があり、これほど日本酒造りに恵まれた場所はありません。県内では系統の違う水脈を活用して各酒蔵がそこにふさわしい日本酒を造っています。また首都圏からのアクセスが良く、観光も楽しめる。山梨の日本酒が全国でトップランナーになるための技術投資を惜しまず続け、ブランド力を高めていきたい」と力強く語る。

山梨銘醸株式会社
住所:山梨県北杜市白州町台ケ原2283
TEL:0551-35-2236 FAX:0551-35-2282
URL:www.sake-shichiken.co.jp