八ヶ岳の水と
花酵母で醸す酒

武の井酒造株式会社
Takenoi-Shuzo

 

若手が支える150年超の蔵

 山梨県北杜市高根町箕輪の武の井酒造は、雄大な八ヶ岳連峰の南麓に位置する。観光スポットとしても知られる市内の湧水地「三分一湧水」を含む八ヶ岳南麓高原湧水群は、日本名水百選に認定されている自他ともに認める名水だ。蔵は慶応元年(1865年)に清水武左衛門が創業し、地下から汲み上げた八ヶ岳の伏流水で酒を醸してきた。「武の井」の名は、創業者の名前に、良水が湧き出る井戸の「井」を添えたもの。6代目蔵主の清水元章社長は、「私たちはここの水しか知らないのですが、よく言われているのは『まろやかな水』ということです」とその魅力を語る。

 蔵は長年、日常使いの普通酒と焼酎を主に製造してきたが、現在はこれらの商品に加えて付加価値を高めた新たな商品を打ち出し、ラインナップを強化している。元章社長のいとこで、東京農業大学で醸造を学んだ兄・紘一郎専務が日本酒杜氏、同じく農大で学んだ弟・大介常務が焼酎杜氏を担う。

 特色の1つは、主に日本酒の製造工程で農大の花酵母を使用していること。この酵母は、東京農業大学短期大学部醸造学科酒類学研究室(名称は当時)が自然界に咲く花々から分離、培養した優良清酒酵母の総称。酒の中に存在する従来の味や香りの個性を増幅させる力があるという。



 

新ブランドの誕生

 2007年に発売した日本酒の新ブランド「青煌(せいこう)」は、つるばらの酵母を使用し、手間暇かけて醸した酒。すっきりとさわやかな味わいが特徴で、冷やして飲むのがお勧めだという。商品名について、「きれいな水をイメージさせる『青』と、『他のお酒に負けないほど日本酒全体が煌(きらめ)きを放ってほしい』との願いを込めて『煌』を組み合わせました」と話す紘一郎専務。全国各地で栽培された酒造好適米を使い分け、それぞれの米の旨味を活かした酒を醸し、「青煌 純米吟醸 雄町」を中心に「青煌 純米大吟醸 愛山」や「青煌 純米 ひとごこち」など多彩な商品を展開している。

 全国約30の酒販店で限定販売し、各種イベントに出展。2018年と19年には中田英寿さんが手掛ける日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK」にも出展した。2019年はANAグループの地域活性化プログラム「Tastes of JAPAN by ANA -Explore the regions-」に伴い、羽田空港ANAラウンジで一定期間提供された。元章社長は「始まってまだ十数年の製品。進化の途中です」としながらも、今後に向けて「まだまだこんなものではないですよ」と、さらなる飛躍に自信をのぞかせる。

 蔵はほかにも、2017年に純米吟醸酒「武の井 四季シリーズ」を発売した。椿、桜、ヒマワリ、コスモスと季節の異なる花酵母で仕込み、その時期に合わせて期間限定で出荷する季節感のある商品だ。2020年には「武の井 純米酒 ひとごこち」をリリース。八ヶ岳の名水と市内の農家が丹精込めて育てた酒米「ひとごこち」を100%使用して醸した酒は、地元への愛情に満ちている。

こだわりの本格焼酎

 日本酒と並んで武の井酒造の主力となっているのが本格焼酎シリーズ「武の井」、「八ヶ岳の舞」、「太陽の恵み。」だ。このうち長期樫樽熟成タイプは樫樽で7年もの間、熟成させることで味に深みを与えたもの。一方、伝統田舎仕立は、常圧の単式蒸留器を使い、手間暇かけて蒸留する“100年前のレシピ”でつくられている。大介常務は「蒸留温度の幅が広い常圧蒸留は、それだけ多くの成分を抽出することができるため、より複雑で濃密な味を楽しむことができます」と話す。日本酒と同様に農大の花酵母を使用した花酵母仕込は、フローラルで奥行きのある味わいが特徴だ。「純米はなたれ」は、蒸留した時に最初に出てくる原酒「初垂れ」だけを取り出したもので、こちらも花酵母を使用。そして「しょうちゅう」は、薬膳酒や果実酒作りに最適な米焼酎だ。

 また「太陽の恵み。」シリーズは、減圧蒸留でシャクナゲの花酵母を使った「太陽と石楠花の恵み。」、ヒマワリの花酵母の「太陽と向日葵の恵み。」、アベリアの花酵母の「太陽とアベリアの恵み。」で構成され、軽やかなすっきりとした味わいと華やかな香りが魅力だ。
 同社の営業方法は担当者や商品によって異なるが、特定名称酒については「酒の会」に参加するスタイルを取っている。酒に対する考え方が似た蔵と酒販店がつながることで、蔵のブランドに込めた思いを飲み手に的確に伝えてもらえる利点があるという。元章社長は「向上心のある酒販店さんほど、『新しい取り組みをしているブランド』『応援したい作り手』との出会いを常に一生懸命考えているので、そういう所へ積極的に来られるようです」と話す。

 新旧幅広い品ぞろえで、未来に向けて新たな一歩を踏み出した八ヶ岳南麓の伝統蔵、武の井酒造。「これからも蔵を大事に受け継ぎ、伝えていくとともに、お客さまに愉しんでもらえる酒造りに取り組んでまいります」と頼もしく語った。

武の井酒造株式会社
住所:山梨県北杜市高根町箕輪1450
TEL:0551-47-2277 FAX:0551-47-2278
URL:http://takenoishuzo.jp/